1−1 何故発見出来たか

 入院当初、先生方から入れ替わり立ち替わり「どうして発見できたの?」と聞かれた。看護師さんの話では偶々血液検査で見つかるケースが多いと言う。急性のタイプは進行が早いから、年に一度の健康診断では取り零してしまう。
 入院後に水泳の池江璃花子選手の事を知ったが、慢性か急性か、骨髄性かリンパ性か等、白血病のタイプは公表されていない。ただ個人的な実感としては発見が「早期」だったのは、恐らく僅かなタイムを伸ばそうとしている時に発症があれば、成績の不調とは異なる体調の変化に気づくのではないかと思う。それでも病気とは判らず「何故?」と言う気持ちになるはずだ。
 身体を日々意識していている選手とは違って、年齢を経ると少々の体調不良等は気に留めなくなる。責任の重さも足枷になる。知人の奥様は急性リンパ性白血病だったが、或る日突然倒れたそうだ。病名は気づかずとも自覚症状で病院に行くとしたら、相当に進行している状態のはずだ。
 治療中に「放置したら、どの位の時間が残されてましたか?」と質問するのは気が引ける。だが病状説明と検査データから恐らく1ヶ月あれば良い方だったと推測している。がんから卒業したら尋ねてみたい。

 子供の頃、夏目雅子さんが三蔵法師を演じた『西遊記』を欠かさず見ていた。1978−1979年に日本テレビで放送された。福音館書店『西遊記』(上・下)は初版 1975年07月15日(呉承恩作/君島久子訳/瀬川康男画)で3年程遡る。ページ数580ページを子供ならではの病中に何度も読み返していた。暫くは本の世界とTVの世界を往復して愉しんだ。
 もう一つ印象的だったのは1960年東映動画制作のアニメ『西遊記』。手塚治虫原作『ぼくの孫悟空』の映画化で、可憐なりんりんが吹雪の中を悟空の為に食べ物を運ぶ。孫悟空が五行山に閉じ込められていた時間を考えると、生きとし生けるものには本来不可能なはずの時間を耐え抜く。りんりんは雪の中に倒れるがラストの記憶が曖昧になっていて「物語のラストを孫悟空の恋人の死、という悲劇的なものにしたいと彼(手塚治虫は)は考えていました。」「しかし制作した東映動画の考えていたのは、あくまでも「子供たちを楽しませるため」の「ハッピーエンド」でした」(手塚治虫オフィシャルサイト)とある。それでも無邪気な悟空に対して、りんりんの姿は単に自己犠牲とか愛とかでは表現できない印象を抱かせた。西遊記花盛りの時代だ。

 白血病と言う病気を知ったのはこの頃だった。英語を教えて頂いていた先生が慢性白血病だったのだと思う。子供には大人が密やかに話すのを見ても何が起きているのか良くわからなかったが、先生の姿勢を思い出すと癌の公表さえ躊躇われる時代に勇気ある方だったと思う。治療法があるという事は研究や蓄積の結果であって、遡った当時の状況は今よりも厳しかったはずだ。だが現在でも白血病には様々な型があるから、治療の難しさの度合いや予後の予測は異なる。安易に「治る」と口に出来ないのはそう言う処にある。
 私の白血病の型は染色体の8番と21番の転座(一部が入れ替る型 t(8:21)(q22;q22.1)だが、暫く確定診断に至るまでを振り返ってみる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です