シタラビン大量療法の抗がん剤投与期間の感想

地固療法(シタラビン療法)とは

 シタラビン大量療法とは、急性骨髄性白血病の治療である地固療法という化学療法(抗がん剤)のひとつの治療法です。これを受けられる方の御参考になればと思います。
 急性骨髄性白血病は様々な遺伝子変異の型によって治療法が異なります。前提となる情報として私の白血病の型は染色体の8番と21番の転座(一部が入れ替る型 t(8:21)(q22;q22.1)で、統計的にシタラビン大量療法が最も生存率を高める事が示されているので治療方針になりました。他の遺伝子変異の型の治療法では、シタラビン(参照1)とそれ以外の抗がん剤等の組み合わせで4回の地固療法を行うのが一般的ですが、シタラビンのみを3回投与する療法です。参照1の医療用医薬品情報の警告にも「シタラビン大量療法は高度の危険性を伴うので、投与中及び投与後の一定期間は患者を入院環境で医師の管理下に置くこと。また、緊急医療体制の整備された医療機関においてがん化学療法に十分な知識と経験を持つ医師のもとで本療法が適切と判断される症例についてのみ実施すること」となっており、シタラビン特有の副作用(参照3)もあります。また強い治療なので年齢や基礎体力などのハードルがあります。現時点では造血幹細胞移植等は必要ありませんが、経過観察で再発等が見つかり選択される可能性はあります。入院期間は一時退院期間を含め、概ね5ヶ月半位です。私の様に気絶転倒や肺炎・腸炎等を起こすと伸びます。また退院後も元の生活を取り戻すには個人差がありますが、1年半はかかると考えておいた方が良いようです(参照2)。

参照1: 医療用医薬品 : キロサイド  KEGG MEDICUS ホームページ
参照2:急性白血病治療後の生活の質に関する横断的研究 集計結果 国立がん研究センター中央病院 造血幹細胞移植科
参照3: 医療用医薬品 : キロサイド 副作用の項 KEGG MEDICUS ホームページ

治療に向き合う気持ち

 白血病は「血液のがん」です。他の「癌」と書く腫瘤等を形成する癌は、治療の為に外科手術、化学療法、放射線療法等がら治療法を選択併用します。ですが白血病細胞は血液として全身を廻っているので、選択肢として新たな治療法が確立されるまでは基本的には化学療法(抗がん剤投与)、移植等です。でも入院時に白血病がどういう病気か知っていらっしゃる方は少ないと思います。突然体調が悪化したり、たまたま血液検査で見つかったりでショックな上に心の準備ができないまま、セカンドオピニオンや治療法を納得するまで学んで選択する時間の余裕はないのが普通です。
 急性白血病において「治療をしない」選択は短期間での「死」が避けられません。ショックを乗り越え、主治医を信頼してよく相談し速かに治療法を選択して、やむおえず中断せざるを得ないか変更を余儀なくされない限り、途中で止めずに頑張り通すしかありません。必ず良い結果が出るとはかぎらなくても後に引く訳にはいきませんから、悪い事を考えないようにして耐え抜くしかないのです。でも人は何時でも誰でも強くあれる訳ではありませんし、年齢や立場によって失う大切なものもあります。廊下で泣き続ける若い女性の姿を見て痛切に感じました。50歳を超えて、これ迄の人生で病気でなく失った大切なもの、実現できなかった希望は沢山あります。でも「なぜなったの?」と嘆き続けても良くならないのであれば、私は病気を発見できた幸運、人に支えて貰えるありがたさを考えるようにしました。免疫の事を考えても、退院したらやりたい事を考えて過ごすのがいいと周囲から励まされました。それでも地固療法2回目位から、気持ち的にも元気ばかりではいられなくなりました。周りから見ても少し寡黙になったな、Twitterの発信が少なくなったなと感じれたのではないかと思います。「もう何回、治療の繰り返しに耐えられるだろう?」内心、そんな風に考えていました。

選択が必要な時

 私は2回目の地固療法の終盤で意識を失い、床に顔面を強打しました。右眼上と鼻の骨にヒビが入り、前歯が2本折れましたが、幸い脳や内臓に問題はありませんでした。ですが白血球や血小板がまだ少ない時期の事。脳出血など起こすと危険で、血液内科全体が大騒ぎになる状況でした。その治療後、一時退院して病院に戻っても「ふらつき」が取れませんでした。様々な検査を行なってシタラビンによる影響が最後に「疑い」として残った時、3回目の地固療法をこれ迄のシタラビン単独投与とシタラビンとそれ以外の抗がん剤等の組み合わせに変更するかどうかの選択を迫られました。院内の先生方のカンファレンスで、過去に患者が生涯、ベットから立ち上がれなくなった事例があり「ふらつきがいつ治るかはわからない」ので最悪を想定すれば、抗がん剤を変更すべきと言う意見があったそうです。但、生存率がシタラビン大量療法を続けた場合と比べてどれだけ異なるかはデータがありません。最悪のシナリオはふらつき(小脳症状)が取れず、かつ再発をしてしまうケースでした。どちらを選択しても重大なリスクがあります。それを主治医の先生と決めることになりました。結果、どちらのリスクも受け容れてシタラビン大量療法の継続を選択しました。確信などは全くありませんでしたが、生存率の高い方かつ良い方に事が転ぶ事に賭けました。ここで学んだ事は同じ治療を選択しても、良くも悪くも人間の体の反応はその時々だと言う事です。
 結果、3回目の地固療法で抗がん剤投与期間中にふらつきは消えました。運がよかったので、その反対もあり得ました。がん治療は最終的には自らの判断になります。どちらを選択したら結果がよいがわからない中での判断をしなければならない場合があります。概ね薬を飲めば、誰でも治る風邪等と大きく異なるのはこの点ではないでしょうか。高齢でも選択できる治療が増えてきているようですが、年齢が上がるほど難しくなるのでがん(癌)治療は出来る時にできる事を後悔なくしておくのがいいのではないかと思っています。

私の受けたシタラビン大量療法の流れ

① カテーテルの設置
② 5日間
キロサイド(シタラビン)1日2回 各3時間点滴
輸液ソリタT1、3 24時間点滴
③ 投与前の吐き気留め
グラニセトロン、ソルメドロール 15分の点滴
イメンドカプセル服用
④ 上記の前後を含む7日間
シタラビンの副作用による結膜炎を防ぐ為にフルメトロン点眼液を1日4回点眼。
⑤ 朝6時と夕方18時の体重測定とトイレの都度、尿量を計りメモ。体重制限(私の場合は開始時の体重+3kg、前回値+1.5kg)と12時間の間の尿量が1000ml以下だった場合、利尿剤投与。

カテーテルについて

 抗がん剤、輸液(水分)、抗生剤等の投与量が多いのでカテーテルの設置が必須になります。局所麻酔で行いますが、先生方の声も当然ながら聞こえるので私はこれが骨髄検査よりも苦手でした。緊張しないのは難しいのですが、身体の力を抜かないとより怖く、より苦痛に感じます。設置後、カテーテルの挿入部位とそれを覆う感染防止のフィルムの剥がれは最も感染に注意しなければならない場所なので、痛みや熱を感じたり、シャワーや洗顔、大量の汗をかいた時等は常にチェックして気づいたら、看護師さんに速かに伝えます。

抗がん剤と輸液投与について

  • ① 副作用について

 主治医の解説では「抗がん剤でがん細胞を殺して、輸液で一気に押し流す」イメージだそうです。同時に点滴とカプセル錠剤で抗がん剤による吐き気を、点眼薬で結膜炎を予防します。副作用は人ぞれぞれ異なります。
 私が経験した副作用は投与後1日目はあまり変化はないのですが、2日目は頬に赤みが差し、心臓がドキドキする様な感じがありました。3日目からは山登りの様な感じです。4、5日目が最も辛く終わって頂上に辿り着くとホッとしました。地固療法2回目は4日目から、3回目は2日目から食欲が低下しました。この時期はまだ免疫力が低下していないので常食なのですが、揚げ物が食べたくなくなり、ご飯も7分粥に変更しました。それでも吐き気留めは随分よくなったのだと思います。胃の不快感はあったものの嘔吐はしませんでした。地固療法2回目は赤みの皮疹が出てステロイド投与となり、4日目の夜、息切れがして苦しくなりました。一番辛かったのが浮腫です。地固療法3回目の方が浮腫対策のため、廊下を歩いたりしていたので僅かですが、楽に過ごせました。キロサイドによる副作用の詳細は  医療用医薬品 : キロサイド 副作用の項 KEGG MEDICUS ホームページ をご覧ください。
 抗がん剤投与中、輸血中、その他治療中全般に何らかの変化があった時は、我慢せずに速かに看護師に症状を伝える事が大切です。例えばアナフィラキシーショック等は対処が遅れると重篤な状況に陥ることがあります。たかが痒みと思わずに直ぐに伝えてください。

  • ② 尿量と体重管理について

 抗がん剤投与中は1日2回、6時と18時に体重を測定します。またトイレに行く度に尿量を測ります。私の例として12時間あたり1,000ml以下、投与前の体重+3kg以上、前回より+1.5kg以上(人により異なります)で利尿剤投与になりました。投与される1日の合計水分量は2.6L程にもなります。食事から1L、体内で0.3L作られ、飲み水で1.2L摂取しますから、合計摂取水分量は約5.1L。平常1日の尿量は1〜2L、特別に汗をかかなければ水分蒸発量は575mlとすると、当然、平常時よりも大量の尿を排出しなければならない事になります。摂取水分量を気にして飲み水を減らすのも「飲んでないから出ない」という逆効果になるようです。参考までに下記の表「地固療法3回目-尿記録」にまとめましたが、私の場合、どう頑張っても1日に出せる最大尿量の平均は3,700ml程のようです。外に出切らない分体重が増加し、浮腫になります。顔がまんまるになり、お腹も樽になり、足もパンパンになりました。同時にお通じが下痢に近い状況でした。表を見ると、汗でもかなりの量が出ていたように思います。この時期はまだ白血球数が減っていないので一般病床にいます。利尿剤を使用するとトイレの回数も増えて、夜中に病室を出たり入ったりするのでとても気を遣いました。浮腫の解消には出来る限りで散歩したり、足湯等もいいようです。抗がん剤投与後、3、4日で元の体重に戻りました。

地固療法3回目 尿記録

シタラビン大量療法の抗がん剤投与期を全て終えて

 血液内科では毎週木曜日に教授回診があります。テレビドラマを想像しながら最初は緊張していたのですが、不謹慎ながら次第に楽しみになりました。
教授が「寛解導入療法と地固療法1回目の抗がん剤投与とどっちが大変だった?」と聞いた事があります。その時は「薬剤による違いは感じましたが、どちらも大変さに違いは感じませんでした。命が掛かっているのでこんなものかなーと思っています」と言う風に答えました。今振り返ってみると、肺炎を併発しながらの寛解導入療法時とまだ体力のある内の最初の地固療法は、私の場合は2、3回目の地固療法と比べて楽だったと思います。僅か20mですが廊下を20往復したり、バイクを漕いだり、ラジオ体操まで頑張っていました。「私の場合は」と書きましたが、看護師さんに尋ねると毎回変わらない人もいれば、次第に慣れてくる人もいて人それぞれだそうです。でも記憶に残っているのは、抗がん剤投与中だけでなく治療期間を含めて、片や肺炎、片や腸炎を起こした2、3回目の地固療法でした。どんなに注意しても起きてしまった肺炎と腸炎。リハビリもほとんどできず、高熱で怠くて寝ている事が殆どでした。
 抗がん剤投与期間だけを見れば「① 抗がん剤と輸液投与について」「② 尿量と体重管理について」に書いた通りです。この時期は未だ白血球等の数も変化なく、一般病床にいます。患者としては副作用に耐え、体調の変化に注意して眈々とそこそこ忙しいノルマをこなし、ストレス発散も適度に取り入れる生活です。御見舞いも体調がよければ無菌室に入る前が安心だと思います。
私の印象では急性骨髄性白血病の治療全体で最も大変だったのは、白血球の少ない時期を乗り越えることでした。ですのでこの時期の私の感想は以上です。

 以後、次のモヤモヤ期に移行していきます。